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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)6813号 判決

原告 木戸産業株式会社

被告 深山昇 外一名

一、主  文

被告古屋正雄は、原告に対し金三十万円及びこれに対する昭和二十五年十一月十九日より完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

被告深山に対する原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、二分して、その一を被告古屋正雄の、その余を原告の各負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り金十万円の担保を供するときは、確定前に執行できる。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告等は、連帯して原告に対し金三十万円及びこれに対する訴状送達の翌日(被告深山については、昭和二十五年十一月十八日、同古屋については、同年同月十九日)より完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は、被告等の連帯負担とする。」との判決及び担保を条件とする仮執行の宣言を求め、請求原因として、

(一)  被告等は、法人設立手続を履むことなくして、山梨県保健衛生協会なる名称を使用して、被告深山は、これが会長、同古屋は、常務理事となり甲府市錦町十二番地咢堂会館内に事務所を設け事実上薬品の売買を業とする共同事業をしていたが、被告等は、共謀の上金品を詐取せんことを企図し、昭和二十三年十一月十五日甲府市の右協会事務所に於て、原告会社外交員坂本準三(当時斎藤準三)に対し、右協会は、経済的基礎極めて不健全なるにもかかわらず、恰も基礎堅固なるが如く装い以て、同人をその旨誤信せしめ、同人と右協会との間にスルフアチアゾール錠二十錠入一万本の売買契約を締結せしめ、同年十二月六日原告会社をして、右薬品五千六十箱(時価金八十八万五千五百円相当)を右協会事務所に送付させて、売買名下に、これを騙取したものである。原告会社は、右被告等の不法行為により金八十八万五千五百円の損害を蒙つたので、被告等は、連帯して、右損害賠償の義務がある。

(二)  右詐欺行為が被告古屋の単独行為であるとしても、右は被告古屋が、被告深山との右共同事業たる右協会の業務の執行について、原告に加えた損害であるから、民法第七百十五条の法意よりして会長たる被告深山は、これが賠償義務を免れることはできない。

(三)  仮りに、右詐欺行為が成立しないとしても、昭和二十三年十一月十五日原告会社外交員坂本準三と被告等の共同事業である右協会との間にスルフアチアゾール錠二十錠入一万本を一本金百七十五円代金回収後払の約にて売買契約を締結し、原告会社は、その契約の履行の一部として、同年十二月六日右薬品五千六十箱を右協会に送付したものであるから、原告会社は、その代金合計金八十八万五千五百円の右薬品の代金債権を有する。

(四)  右協会の事業が事実上被告古屋の単独事業であるとしても、被告深山は、右古屋の事業について、会長として信用を供与したものであるから、被告深山は、同古屋と連帯して右代金債務について責任を負担すべきである。よつて、原告は、被告等に対する右金八十八万五千五百円の債権中金三十万円及びこれに対する各訴状送達の翌日より完済まで年五分の割合による損害金の支払を求める。

と述べた。<立証省略>

被告深山の訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、

被告深山が山梨県保健衛生協会の会長であつたことは認める。その余の原告主張事実は、全部否認する。右協会はさきに解散を命ぜられた山梨県衛生組合連合会の残務整理を行う傍ら衛生思想普及事業を行うために設立せられた人格なき社団であつて、被告深山は、昭和二十三年四月頃右協会の会長に就任したが、その後約半年位で当時の山梨県衛生部長家永政彦より同協会が薬種商の免許を受けないで、薬品の売買をしているという理由で解散するよう話があつたので即日解散して会長を辞任したものであり、本件スルフアチアゾール錠の取引がなされたのは、その後であるから、被告深山は、本件取引には何等関係がない。且つ、右取引は協会の目的範囲外の行為に属し、しかも薬事法の禁ずるところであるから、協会の関り知らぬことであり、協会のみならず被告深山がその責任を負担することはあり得ない。被告古屋は協会の専務理事として代表権を持ち、被告深山の被用者ではない。被告深山が自己の名を使用することを承諾したとしても、同人は右協会の会長であつて、会長たる同人が協会に対して信用を供与することはあり得ない。

と述べた。<立証省略>

被告古屋は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、

原告の主張事実中、原告主張のような薬品の売買契約が原告と山梨県保健衛生協会との間に締結され、その主張の日時、その主張のような数量が原告より右協会に送付されたこと、及び被告深山が右協会の会長にして、被告古屋がその常務理事であつたことは、いずれも認める。その余の原告主張事実は、全部否認する。本件売買契約は、原告の外交員坂本準三が薬品売込のため右協会事務所に来て、被告古屋不在中、右協会事務員萩原正次との間に締結されたものを後に被告古屋において承認したものであつて、被告等が、右坂本を欺罔して右売買契約を締結させたものではない。

と述べた。

三、理  由

先ず原告主張の詐欺の点について考察するに、原告主張のように、被告等が共謀して、当時原告会社外交員訴外坂本準三を欺罔して同人と山梨県保健衛生協会との間に本件スルフアチアゾール錠一万本の売買契約を締結させた上、原告より右薬品五千六十箱(時価金八十八万五千五百円相当)を騙取したとの証拠は、何もないのみならず、却つて、証人萩原正次の証言によつて真正に成立したことの認められる甲第一号証、証人坂本準三、同萩原正次の各証言及び被告本人古屋正雄訊問の結果を綜合すれば、昭和二十三年十一月十八日、当時原告会社の外交員であつた坂本準三が原告会社の外交員として薬品売込みのため自己の郷里である山梨県に赴き、甲府市の山梨県公衆衛生課を訪ねたところ、同庁の係員より県庁では薬品は取扱わないから、錦町十二番地咢堂会館内の山梨県保健衛生協会に行つて見てはどうかと教えられ、右協会を訪ね、同協会事務員萩原正次と会見の上、同人との間に甲第一号証記載のような内容のスルフアチアゾール錠一万本の売買契約の取決めをしたものであつて、当日は、被告古屋が不在であつたので、右萩原正次においても契約書の差入れをちゆうちよしたが、右坂本の切なる依頼によつて、同人は甲第一号証の契約書を差入れたものであり、その直後被告古屋において、右売買契約を承認したこと及び被告深山が右協会の会長にして、被告古屋が常務理事であることは、右契約締結後右坂本と萩原の雑談中に、右萩原の口より出て初めて右坂本において、知り得たものであることが認められるから、右スルフアチアゾール錠の売買契約が、被告等において、右坂本に右協会の信用状態が堅固なりと誤信せしめた結果、締結されたものとは到底認めることができないから、原告の損害賠償の請求は何等理由がない。

そこで、原告の売掛代金請求の主張について考察するに、原告は右協会の事業は被告両名の共同事業であると主張するが、証人家永政彦の証言及び各被告本人訊問の結果を綜合すれば、右協会は、山梨県衛生組合連合会が連合国軍最高司令官の覚書該当の団体として解散した後、この残務整理を兼ねて、山梨県下の保健衛生の指導等を目的として、設立したものであつて、慣例上県下町村長会長を右協会会長とすることになつていた関係上、被告深山が昭和二十三年四月右町村長会長に推されたため協会会長に就任したが、同被告は協会の会長として何等事務をとつたこともなく、何等の報酬を受取つたこともなく、協会の運営、事務等については被告深山に対し何等の相談もなく、専ら被告古屋が単独で専務理事(又は常務理事)の名において、右協会の運営をしていたことが認められる(この点に反する被告古屋正雄本人訊問の結果は信用しない)から、右協会の事業は被告両名の個人的共同利益のための共同事業ではないと認めざるを得ない。

被告等は、右協会は、人格なき社団であると主張するが、人格なき社団であるというがためには、目的、名称、事務所、資産、役員等に関する定めをなし、これに従つて、社会通念上一の経済取引の主体としての活動をする人的集合体にして、相当強固な経済的基礎を有していることを必要とするものと解するを相当とするところ、その組織が如何なるものであつて、如何なる財政的基礎を有し、具体的に如何なる運営、活動をしていたかについては何等の立証がないから、右協会が人格なき社団であつたことは到底認めることができない。尤も証人遠藤三郎の証言によつて、真正に成立したことの認められる甲第三号証の一、二によれば、右協会が、何等かの団体であつたことは認められるけれどもこれのみを以て、右協会が人格なき社団であつたことを認めるだけの証拠となすには足らない。従つてたとえ、被告深山を会長、同古屋を専務理事と定めた(この点当事者間に争がない)からと言つて、これのみで人格なき社団となることはない。

しかして被告古屋が主観的には、右協会の専務理事として右協会のためにする意思を以て行動していたことは、同被告訊問の結果、その他弁論の全趣旨によつて、認められるところであつて、前認定のように被告古屋が、訴外萩原正次の本件スルフアチアゾール錠の売買行為を承認するにあたつても亦右協会専務理事として右協会のために、これを承認したものであることが認められるから、本件スルフアチアゾール錠の売買行為が原告主張のように被告等の共同事業の遂行としてなされたものと認めるべき余地は存在しないのみならず、他に被告等の共同事業たることを認めるべき証拠は何もない。又本件スルフアチアゾール錠の取引が右協会の会長としての被告深山に対する信用を基礎としてなされたものでないことも前認定の本件売買契約締結までの経過により明かであるから、被告等は共同事業であること、又は被告古屋の本件取引に対し被告深山が信用を供与したことを前提とする原告のこの点の主張はいずれも採用できない。尤も、証人坂本準三の証言により真正に成立したものと認められる甲第六、七号証の各一、二証人坂本準三の証言によれば、本件スルフアチアゾール錠の売買代金債務について、被告深山、同古屋と右坂本との会談が行われ、被告深山において、これが責任を負担する旨言明したかの如き記載及び供述があるが、この点は前認定の事実よりして軽々には信用できないし、他に右認定を覆すに足る証拠はないから、被告深山に対する原告の請求は理由がない。

一方被告古屋の立場について考えてみるに、前認定のように、被告古屋が、本件スルフアチアゾール錠の売買契約を承認したのは、右協会のため、その専務理事(又は常務理事)としてなしたことが認められ、しかも人格なき社団としての右協会の存在が認められないこと前記判断のとおりであるから、同被告は代表又は代理すべき社団が存在しないに拘らず、その代表者又は代理人の資格において原告との間に本件取引をしたものであり、この関係は恰も無権代理の場合と類似するものがあり、本件取引につき原告を代理した坂本準三(当時斎藤)は当時古屋に代表又は代理の権限がなかつたことを知り、又は過失によりこれを知らなかつたとは認められないから、民法第百十七条第一項の規定を類推して売主たる原告は、被告古屋に対し右売買契約による履行又は損害賠償の選択権を有するものと解するを相当とするところ、原告は本訴において、売買契約の履行として、その代金八十八万五千五百円(この点当事者間に争がない)中金三十万円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和二十五年十一月十九日以降完済まで年五分の割合による損害金を求めるものであるから、被告古屋に対する請求は、結局理由があるものとして、これを認容すべきである。

よつて、民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条、第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 近藤完爾 和田嘉子 倉田卓次)

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